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“CEDEC 2019” 講演者インタビュー特集
第4回 描画品質向上のためのリアルタイムレンダリングへの応用

2019年9月に行われた「CEDEC2019」にて、Luminous Productionsのクリエイターたちが
最新のゲーム技術に関して様々な講演を行いました。
講演内で伝えきれなかった、より詳細な内容や、開発者の想いを主にお伝えしていきます。

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増野 健人
グラフィックスプログラマー

■時代に合わせた研究経過と、業界内の進化へのアプロ―チ

―今回の講演テーマを行おうとしたきっかけをお聞かせください。

増野:個人的な自習の時間から始まっています。というのも、Luminous Productionsは固定勤務制(9:30~18:00)なので、定時後の空いた時間で興味がある分野の勉強を続けていました。 勉強していく中で、今回発表したような「レンダリングと機械学習を組み合わせた品質の向上」はテーマとして面白いと思い、検証と実装を進めていました。その成果を発表する場としてCEDECにエントリーした形です。このスタジオだから出来た勉強の成果だったと思います。もちろんCEDEC採択後の準備は業務としてやらせてもらえました。

―イン・アウトプット両方が実現できる環境だからこそですね。
テーマを今回のものにしたのは、これからのプロジェクトへの実装を見据えて始めた学習でしょうか?

増野:次のプロジェクトも見据えてはいますが、機械学習がIT業界のトレンドであることと、最近は一部のGPUに機械学習を効率的に処理するための専用コアが搭載されてきているのも、このテーマを始めた理由です。演算のプロセッサ自体が徐々に汎用的な計算性能を伸ばす方向から専用処理に特化した形にシフトしていて、その専用コアを活用するためのAPIもリリースされています。そういった技術のトレンドだったり、この先のプロセッサやAPIの進化の流れを考慮して、今回のDirectX 12を使用した機械学習をテーマとして扱いました。

―グラフィックスAPIは今色々出てきていると思いますが、あえてDirectX12を使用した理由は何かあるのでしょうか?

増野:最近の流行りだと『ファイナルファンタジーXV』のStadia版でも対応しているVulkanなど色々あるのですが、個々のAPIにはそれほど大きな違いは無いと思っています。プラットフォームを問わなければ個人的にはMetalが書きやすくて気に入っています(笑)
あえてDirect X12を使用したのは、今回の自分の講演ではパストレーシングとマシンラーニングを組み合わせた実装をしたかったためです。Vulkanでもレイトレーシングなどを実行することは可能ですが、一部の拡張機能に頼らないといけなかったりと、標準としてはまだ使用することが出来ません。今の段階ではDirect X12の方が試しやすい環境にあったため、そうした形です。

―流行もありつつ、適材適所というところでしょうか。
グラフィックスAPIだけでなく、描画品質向上のための研究は今どういったものが流行なのでしょうか?

増野:レイトレーシングはもちろん、今回の講演テーマでもあるマシンラーニングの活用には個人的に大きく注目しています。
限定的ですがリアルタイムレイトレーシングの活用は次の世代のハードウェアでは当たり前になっていくだろうし、もう少し先の未来に目を向けた時にはフルでのパストレーシングを採用したゲームも登場してくると思います。その時に、レンダリングはパストレーシングで行い、後段のパスでマシンラーニングを用いたデノイジングや超解像度といった処理を用いて描画品質を向上させる方法にレンダリングパイプラインは発展していくのではないか?という予測を立てています。

―今回増野さんが研究した結果はもうLuminous Engineに実装出来るのでしょうか?

増野:将来的にエンジンに対してのフィードバックはしたいと考えてはいますが、今はまだゲームで使うためには研究段階の域は出ていません。いくつか課題もありまして…。今回実装した結果、うまくいく部分とまだまだ発展させないといけない部分が見えてきたので、その「これから」の部分に対するアプローチをどうするかを考えて解決していく必要があります

―その「これから」とは?

増野:今回の実装ではレンダリング結果のフレームバッファに対して、ポストフィルタ的にコンボリューションとデコンヴォルーションを複数回適用して、デノイジングや超解像度を行いました。ただ、そもそも畳み込みのフィルター枚数が多くてメモリーを非常に圧迫していたのと、コンピュートシェーダで独自に実装したニューラルネットワークの計算コストが高くついてしまい、フレームレートが出なかったです。

―課題へのアプローチ方法は既に見つかっていますでしょうか?

増野:いくつか手法はありますが、軽量なDepthwise Separable Convolutionsの実装とフィルター数が少ないモデルの適用が課題と考えています。そのための調査は今後必要です。

―ではまだまだ勉強・研究を続けていくしかないのですね。

増野:海外の先進的な企業では、今回のテーマと同じ事を既に実用化しているところもあるので、そう言った事例は調べていく必要があります。あとは、リアルタイムレンダリングへのマシンラーニング適用はまだ始まったばかりで、SIGGRAPHやGDCからの資料はもちろんですが、ゲーム分野だけに限らず広い範囲から情報収集するように心がけています。

―確かに、このインタビューシリーズの以前のインタビューでも、これからのゲーム開発には多方面からの技術が必要になってきそうとお話がありました。
やはりグラフィックスプログラマーにとっても同様に感じているのですね。

増野:そうですね。開発者に必要となる技術のスキルセットが広がってきているという印象があります。 グラフィックスプログラマーという職種の中だけであっても、取り組みや業務内容によっては必要なスキルは多岐に渡ります。

―技術もどんどん新しくなっているので、追いつくのも、追い越すのも大変になっていきますね。

増野:出来ることが増えたぶん大変になっていきますね。大変だし難しいのですけど、ゲーム自体の表現力が上がれば今までに無い新しいものを自分たちが届けられる可能性もあるので、やりがいや面白みを感じています。技術の進化を前向きに捉えて、貪欲にキャッチアップを続けていつかはリードしていきたいです。

■増野氏が目指す「これから」

―まだまだ増野さんの研究への追及は続いていくと思いますが、今他に研究してみたい技術はありますでしょうか?

増野:今後やりたいなと思っているのは、GANなどの生成モデルを使用した3Dジオメトリの自動生成です。 背景LOD制作を課題として挙げれば、最近は近距離の超高密度なジオメトリ表現はもちろん、中距離・遠距離に対する密度感や情報量をいかに増やすかが大きなテーマとなっています。従来は様々な制約があり、近距離だと森として見えていた場所は、遠距離だと簡略化したジオメトリへの置き換えか、場合によっては森そのものを消してしまう処理が入っていました。

次に向けた取り組みとして、例えば近距離の高密度の情報と、遠距離のシルエットの2つだけの情報を保持しておいて、距離とカメラ範囲に応じて、ランタイム上でシルエットからLODモデルを自動生成するといったことが出来ないかと考えています。

※LOD(Level Of Dettail):カメラからの距離に応じてモデルのディテールを切り替え、シーンの計算負荷を軽減する手法

―確かに、リアルなゲームをプレイするとなったときに、背景が行動によってチープに見えてしまったりすると一気にゲーム体験が損なわれてしまいますね。そこをカバーすることは、やはりかなり難しいものなのでしょうか?

増野:今までは、品質と処理負荷、それに制作フローなんかのバランスを考えないといけなかったので結構難しかったです。もちろん、ある程度は自動化でカバー可能な部分もありますが、最適なマッシブLODの範囲などは人の手による調整が必要でした。
そのために、マスターアップギリギリに背景アーティストが本来のクリエイティブな作業から離れて、細かいモデルデータのパッケージ化の調整とLOD距離の修正を行う…ということが起きていたので、そういった作業を排除して、ランタイム上でゲームの進行に合わせて適切な範囲のLODモデルをAIの力を借りて自動生成する、なんて事が行えたら良いなと考えています。

―なるほど、様々なコンテンツを組み合わせて、実装していくのですね。理論上は可能なのでしょうか?

増野:3Dモデルの自動生成は非常にホットな話題なので、様々なところで研究されていますし、一部では実用化されているものも存在しています。ただそれが、実際のプロダクトレベルでの応用可能な物かは別の話になってくるので、実現はまだまだ難しいと考えています。何となくそれっぽいモデルデータが作れても、ゲーム世界に配置した時に違和感が出てしまったら最終的に使えないと判断される可能性があります。

―モデルがどんなにリアルでも、何かひとつでも違和感があればすべて台無しになりかねない、というリアリスティックなゲームの永遠の課題ですね。

増野:僕らの仕事ってそこが一番重要だったりします。仰るように、ものすごく綺麗な素材があったとしても、どこか一箇所だけでも不自然さが残ると人間の目って強烈にその不自然な部分に引き寄せられてしまう。ひとつひとつの要素が良く出来ていても、トータルとしてみた時に、違和感を抱いてしまうことが良くあります。

最終的な絵作りやユーザーさんが感じるゲーム体験に直結してくる部分なので、一つ一つの違和感の排除を大切にしていかないといけません。

―しかし、そこをひとつひとつ潰していくのは相当骨が折れそうな作業に思えます。

増野:そうですね…。先ほどはLOD生成の話を例としてあげましたが、そもそもオープンワールドのゲームを作ろうとした時に、数キロ四方とか数十キロ四方とかの大陸が広がっていて、それらを全て人の手で作るのはあまり現実的ではありません。なので、プロシージャル系の技術の導入は必要ですし、それに加えて何かしらのAI的なアプローチも導入して効率化と品質を担保するような仕組みを作っていかないといけません。
ただいくら自動化しても、最終的には人の感性だったりセンスにはたどり着くことは出来ないので、そこには人の手が入ります。

■常に新しい驚きと、想像を超えるゲームを目指して

―まだ増野さんは入社して数年だと思いますが、増野さんから見てLuminous Productionsらしさ、というのはどういったものがありますでしょうか?

増野:これはすごく個人的な話になるのですが…僕が今年の2月に子供が生まれたのですが、社内に先輩パパさんが多くて、子育ての悩みを聞いてくれる人がいるのはすごく助かっています。最先端の挑戦をしている会社で、きちんとした固定勤務でかつ育休なども取得されている方も多くいます。そのような仕事と家庭のバランスが取れて、女性も男性も子育てしやすい環境なのはこのスタジオらしさかなと思います。個人的な話ですいません(笑)

―すごくアットホームですよね(笑)。面白いゲームを作るための良質なイン・アウトプットをするには大事なところだと思います。

―では最後に、Luminous Productionsで挑戦していきたいことや、目標など熱い想いをお聞かせください。

増野:月並みですが、やはり根底には良いゲームを作りたいということがあります。 今のゲームは様々な技術を取りながらどんどん進化しています。でも、絵的にどんなに凄い表現を取り入れたとしても、いつかは人の目には慣れる時がきて、最初に感じていた感動や興奮が薄れてしまう時がくると思っています。だからこそ常に想像を超えられるような新しい驚きや体験を届けられるように、その時々の最先端への挑戦は必要だと思っています。

あとは僕自身が純粋に技術的なチャレンジが好きなので、色々やってみたい。将来的にはGDCやSIGGRAPHでも講演してみたいし、ICCVやCVPRやNeurIPSでも論文を通したいので、そのために日々新しい学びとアウトプットを出していきたいと思っています。スタジオとしてそう言った挑戦を後押ししてくれる環境がありますし、個人の技術的な挑戦がゲームエンジンにも反映されて、最先端のゲーム作りに繋がるようなサイクルにしていければ良いなと思っています。

講演資料(pdf)のダウンロードはこちら

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